2024.01Nissin Academy Training Center
Nissin Club Saganoso
ENVIRONMENTAL SYMBIOSIS
EVIDENCE
希少種を含む多様な植栽により美しくつくりこまれた雨庭
日新電機の創立100年を記念に計画された社員の技術継承を目的とした研修施設と保養施設。さらなる100年後を見越し、京都地場の企業として地域課題に取り組み、地域のより良い環境を目指す検討を行った。地域課題として、
①京都市内では近年ゲリラ豪雨などによる内水氾濫リスクが高まり、桂川近郊の対象地では、浸水被害や下水道から越流した未処理水による桂川への水質汚染や生態系劣化の懸念がある。
②京都では歴史・文化にゆかりのある植物があり、 秋の七草のフジバカマ、祇園祭で魔除けに使われるヒオウギ等が京都府レッドデータブック(2022)にカテゴリされている。この希少種は京都三山等の自生地が里山問題(低利用)、鹿の食害や開発行為等により減少し、種や文化の保全が急務である。
廃線になった旧京都市電の敷石を再利用した自然石の渡り(嵯峨野荘)
コミュニティ空間となる中庭(研修センター)
所在地 | 京都府京都市右京区梅津南広町8番8 |
---|---|
主用途 | 研修、保養 |
事業主 | 日新電機㈱ |
外構設計 | 株式会社ランドスケープデザイン |
建築設計 | KAJIMA DESIGN |
施工 | 鹿島建設 関西支店 |
敷地面積 | 約5000m2 |
竣工 | 2019年2月4日 |
庇からの雨を見せる
水域Ⓐに開放
水域Ⓑに合流
雨を地盤面で見せる
水域Ⓑに開放
歩道に面する水域Ⓑ
屋根1からの雨
砂利側溝
歩道に面する開放樋
地域課題解決の対策として、都市インフラ軽減に寄与すること、グリーンインフラの取り組みへの関心を社員や地域に啓発することを目的に、敷地全体の降雨を3つの庭に誘導し、それぞれ浸透・一時貯留する過程を「雨道」として位置づけた。
具体的には、上図のように庭に限らず建築屋根や樋に流れる雨をそれぞれ雨庭(水域A)、水景(水域B)、枯山水の庭(水域C)に引き込み、集水過程や各庭で雨を可視化させた。その方法は、例えば敷地境界の塀に開放樋を設ける、雨庭や水景を塀の外に設けてサインを設置するなど、社員に限らず地域の方にも関心をもたらす工夫を行っている。
敷地全体の貯留効果として敷地面積約5000m2の内、雨水が浸透可能な面積はわずか約18%ではあるが、計算上は約35mmの貯水能力を持つ。(日本建築学会「雨水活用技術規準」より基本蓄雨量500m3に対し敷地全体蓄雨量174m3(約35%)の算出)
このうち、雨庭については1年間のモニタリング調査を実施し、10mm/日程度の降雨であれば貯留率100%、128mm/日の豪雨でも66%の貯留率が確認され、一定時間(48時間程度)かけて浸透させる雨庭仕様として一時貯留効果(都市インフラ流出遅延効果)と地下水涵養の効果が発揮されていることが確認されている。
季節の彩りを演出する京の草地
社員の意識向上に寄与するアプローチ沿いの⾬庭
降雨時の雨の一時貯留を視覚化する雨庭
希少種を含めた多様な植栽による「雨庭」では、雨水を一定時間かけて浸透させることで公共インフラの負担を軽減、その過程で植物による不純物固定や濾過機能による水質浄化により良質な地下水涵養や桂川の水質向上に寄与する。
取り組みを明示する水景システムのサイン
桂川を参考にしたせせらぎ形態と植栽計画
太陽光発電で稼働する雨水を再利用した循環式の水景を隣接歩道沿いに設け、彩りのある豊かな緑地とともに地域景観向上に寄与している。
雨水を再利用するにあたって、過去の気象記録を参考に連続無降水日数(最長12日間)から貯水タンクの規格を、月の平均最小降水量(2mm/h)から雨水の集水範囲を設定し、雨水のみで循環できる仕組みを構築した。
雨を浸透させる枯山水の庭
栗石を使用した砂利側溝
庭の雨水を放流する歩道に面した開放樋
京都は古くより庭園に雨を浸透させることで室内への浸水を防いできた歴史がある。嵯峨野荘の庭園は枯山水の庭に設え、屋根で受けた雨水を庭に垂れ流し地下浸透させることとした。その一部を誘導し、外壁に取り付けた開放樋より「雨水を視覚化」させることで地域の方へ雨水への関心をもたらす工夫を行った。
フタバアオイ(上賀茂神社より株分け)
フジバカマ(絶滅寸前種)
オミナエシ(準絶滅危惧種)
植物に関心を寄せる近隣の子供
カワラヒワの水飲み
スズメの水浴び
ヒョウモンチョウの飛来
オミナエシとカマキリ
雨庭や水景の植栽は、桂川流域の里山をテーマに地域種による構成としている。希少種を含む地域種の植物は京都産にこだわり、各団体からの協力を得ながら植栽を行い、希少種の育成を進めている。例えば、フタバアオイを育成してフタバアオイ奉納式に奉納しているほか、ヒオウギやフジバカマなどの希少種を育て、京都の文化と生物多様性の保全に貢献すると共に、本社工場の緑地の一部を希少種植物の避難地として位置づけ、生息域外保全している希少種を社員が株分けし、対象地に植栽することで生態系ネットワークの拡大に貢献している。
カテゴリは「京都府改訂版レッドリスト2022」を参照 ※写真提供:㈱エスエス 津田裕之