LD LETTER

vol.13

2024.01  ECORE KUMAMOTO

COMMUNITY ENRICHMENT

ENVIRONMENTAL SYMBIOSIS

ホタルが舞うビオトープによる地域貢献 エコアくまもと

ホタルビオトープ

自然環境を育み、環境学習の場となったホタルビオトープ

「エコアくまもと」は公共関与産業廃棄物管理型最終処分場です。
計画地周辺は、雑木林と水田がモザイク状に点在する里山環境の地域です。しかし、少子高齢化や就農人口減少により、里山の衰退が危惧されており、地域の生態系を支える生物の保全対策が必要でした。また、本施設は県北の環境教育の拠点としての役割も期待されていました。
そこで、自然環境を育み、学ぶ場として「ホタルビオトープ」を創出しました。また、地域の誇りとなる桜とつつじによる名所づくりとして「桜桟敷」も整備しています。

水辺のテラス空間

地域の花であるサクラとツツジからなる桜桟敷

エコアくまもと
所在地 熊本県玉名郡南関町
主用途 最終処分場
発注者 公益財団法人 熊本県環境整備事業団
緑地設計 株式会社ランドスケープデザイン
生物調査 鹿島建設技術研究所
維持管理 鹿島環境エンジニアリング株式会社
土木・建築設計 鹿島建設
施工 鹿島・池田・興亜・岩下JV
敷地面積 約12ha
工期 2013年7月~2015年10月

エコアくまもと鳥瞰写真

水路試験

水路とホタル池

ホタルビオトープの創出

ホタルの生息できる環境づくりには、幼虫の餌となるカワニナが十分に生息していることが必須条件です。そこで、カワニナの生息に適した設計条件(流速、水温)の設定を目的に水路試験を行い、得られた結果を設計・施工に反映しました。また、ビオトープに放流するホタルとカワニナは、地域の生態系への影響を減らすため、生息地からの採取数は最低限とし、鹿島建設技術研究所の独自の開発技術で効率的に増殖することで確保しました。また、ホタルビオトープには幼虫が上陸して蛹となる場所も必要です。しかし、計画地の土壌は有機分が乏しい性状で、蛹化基盤として適していませんでした。そこで、本施設の計画地内にあった休耕田から土壌を採取し、表土へ利用することで蛹化基盤を整備しました。

ビオトープの創出プロセス 

計画・設計・施工・維持管理の各期において4者(設計者・研究者・施工者・運営者(発注者))が協働することで、順応的な取り組みを実現しました。

移植元調査

設計者・研究者・施工者の3者でホタル生息地を調査した。

研究者によるモニタリング調査

モニタリング調査による環境の把握。

ビオトープ周辺で確認された生き物

確認種:動物184種、植物190種

順応的な取り組み

生物多様性に配慮した緑地では、順応的管理が重要といわれています。順応的管理とは、生態系の不確実性を前提にしており、継続的なモニタリングにより、適宜維持管理の見直しを図る手法です。しかし、計画から施工時においても、環境調査等によって当初想定していなかった課題が見出され、計画の見直しが必要な場合があります。 したがって、生物多様性に配慮した緑地創出には、計画・設計・施工・維持管理のすべての段階において、現場の状況に応じた順応的な取り組みが必要です。そのためには、調査により明らかになった課題を計画にフィードバックする柔軟な体制としくみが重要です。「エコアくまもと」では、設計者・研究者・施工者・運営者が協働することで、ホタルビオトープを創出し、地域の皆さんにも親しまれる場所をつくることができました。

研究者による授業

小学校でのホタル幼虫飼育

飼育したホタル幼虫をホタルの里に放流

環境学習イベント

環境学習イベント

計画地に生息するホタル

環境学習の拠点として活用されている水辺のテラス

管理運営のとりくみ

竣工後、ホタルビオトープを環境教育の拠点のひとつとして運営を開始しています。また、モニタリング調査も継続的に行っています。計画を担当した鹿島技術研究所の研究者が地元の小学校の環境学習やビオトープの維持管理を支援しています。
南関町には「久重ホタルの里」というホタルの名所がありますが、環境保全活動の担い手が不足し、地域との連携と人材育成が急務でした。そこで、「エコアくまもと」の知見を活かして、幼虫放流活動などを支援しています。
現在、施設管理者(熊本県環境整備事業団+鹿島環境エンジニアリング)が地域や小学校の窓口となって、地域の環境保全活動の中心的な機能を担っています。「エコアくまもとは、」ホタルビオトープを通じて、地域コミュニティ活性化に寄与する施設となったといえます。