LD LETTER

vol.6

2020.10  LEPUTING

LEGACY

ON-SITE DETAILING

OPERATION AND MAINTENANCE

台北錦町日本官舎再生のランドスケープ 楽埔町

台湾台北市南西中心部に残された日本統治時代(1895~1945)の邸宅を、
文化商業複合施設としてリニューアルした再生のランドスケープ。
敷地は、中正記念堂南側に位置し、日本統治時代に錦町と呼ばれ、中級官僚官舎が集積し
ていたエリアで、現在も当時の日本家屋が多く残っています。この「樂埔町」を含む、か
つての宿舎群は、2006年台北市歴史的建造物に登録されましたが、その多くが手つかず
で荒廃していました。
2013年、台北市文化局は古い建物の再生プロジェクト「老房子文化運動」を打ち出し、
木造建築の修復・整備のアイディアを民間企業から募集。このプロジェクトは、一連の運
動の中で生まれました。

樂埔町LEPUTING
所在地 台湾台北市杭州南路2段67號
主用途 レストラン、ギャラリー
事業主 立偕生活文化有限公司
建築設計 呂大吉建築師事務所
景観設計 株式会社ランドスケープデザイン
作庭技術指導 箱根植木株式会社
施工 藝琳営造有限公司、光輝工程有限公司
設計対象面積 約332㎡
建築規模 地上1階

枯山水の庭 夕景

再生整備前の庭と建物

文化と再生

敷地内には、約100年前の日本統治時代の庭の遺構である景石・灯篭などが荒れ果てた状態で残されており、それらの痕跡を注意深く読み取り、既存樹木なども活かしながら、枯山水の庭として再生しました。
敷地入口横北側の庭園には、「錦」という縁起の良いとされた日本統治時代のこの町の名称と建物内に併設されている草木染のギャラリーに着想を得、絹織物をテーマにした枯山水の庭とは対照的な現代風の「錦の庭」を計画。更に、エントランス門扉から建物玄関へと続くアプローチ空間を庭に見立てた「染の庭」では、染物の原料の植物を修景に使用したり、建物修復の廃材を使用した彫刻作品を配すなど行い、来客に活気を感じてもらうことを意図しました。染物やオブジェ、アートイベントなどの現地アーティストとの連携により、眠っていたこの場所が歴史と共に新たな魅力が加えられた姿としてよみがえっています。
このレストランは、提供される料理と共に自然環境豊かなガーデン空間での食事体験が評価され、台湾版ミシュランに掲載されており、台湾グルメの方々だけでなく、日本からの観光客も多く訪れる人気施設となっています。

錦の庭

日本とは異なる台北市で生育するの植物材料を用いながら、日本庭園のデザインを実現する

日本と台湾が一体となった施工技術指導

枯山水の庭を西側から見る

海外での日本庭園作庭

繊細な庭園デザインの実現、特に伝統的日本庭園の再生に当たっては、細部まで配慮の行き届いた緻密で美しい仕上りの日本の造園施工技術が不可欠だと考えました。正しい日本の造園空間への認識を広めるべく、日本庭園の作庭を専門とする箱根植木株式会社の協力を得、設計と施工が一体化となり現地で施工技術指導を行い、高品質のランドスケープ空間の創出を目指しました。当計画における、設計と施工、そして台湾と日本とのコラボレーションは、日本の庭園文化への理解を促しながら、日本の造園設計施工技術を一体的に発信していくことの可能性を予感させるものとなりました。

染の庭

植栽は、草木染材料の植物を配植。鹿は、現地アーチストによるこの建物廃材を活用したオブジェ

街並みのデザイン

敷地は、台北市南西中心部に位置し、周囲には、台湾の三大観光名所の一つである初代総統蒋介石顕彰施設の中正記念堂に近接しており、街並みに対する意匠についても丁寧にデザインを行いました。敷地境界部には表裏両面をデザインした黒い面格子を用い、建物の開閉に関わらず、庭空間を街路から感じられる曖昧な境界とし、美しい街並みを誘導する試みを行っています。

街路に美しい庭園の雰囲気が漏れる

庭園維持管理技術指導の風景

亜熱帯気候での庭園維持管理について

計画地のある台北市は、日本と同じ温暖湿潤気候区分に分類されていますが、別の気候帯分類でみると台北市は亜熱帯地域で、沖縄・石垣島とほぼ同じ緯度にあり、日本本土の温帯とは気候風土、植生など環境が全く異なります。亜熱帯の自然環境下において、日本庭園を作庭し、日本と同様に維持管理していくことは困難が伴いますので、私たちは、庭園の維持管理についても施主と良好な関係を取り結びながら、現地にて庭園維持管理技術指導を実施しています。この技術指導のスキームは、作庭時に協働した施工技術チームと共に設計者として最適な維持管理方法の提案を行い、良好な自然環境のマネジメントに寄与しています。